1.流氷を科学する その1

(1)最南端の北海道?

 オホーツク海は世界で最も南の“流氷の海”。流氷の源は中国とロシアの国境を流れる大河、アムール河(黒龍江)にさかのぼる。
 11月下旬、ここからオホーツク海に注ぐ大量の真水がシベリア大陸から吹き寄せる身を切るような冷風につつまれ凍りはじめる。
 誕生した氷は、海流に流され、北風に吹かれて、しだいに成長しながら南へ南へと旅をする。
 1月下旬、およそ1000kmの旅を終えて網走のはるか沖に流氷の先発隊がやってくる。それを待ち受けていたかのように、岸辺の海水はゆっくりうねりながら凍りはじめる。流氷の群れは、陸の様子をうかがうように水平線上に見え隠れしながら、陸に向かって冷気を放ち続ける。
 そして、キュン、と冷え込んだある朝、びっしりと氷に埋めつくされ、シーンと静まりかえった“氷の海”が出現している。白い氷原は巨大な大陸のようにどこまでもどこまでも広がっている。

(2)流氷誕生

流氷は、遠くシベリア大陸からやってくる。しかし、氷は大陸から遠いオホーツクの沿岸だけにやって来る。同じ緯度なのに、大陸に近い日本海側は凍らないのは、なぜなのだろう。
オホーツク海が凍るのは3つの条件がそろっているからだ。まず第一はオホーツクがカムチャツカ半島、千島列島、北海道などに囲まれた閉じた海であるということ。太平洋や日本海などの海水があまり入り込まない。

この閉じた海に、シベリア大陸を流れてきた大河アムール川の冷たい雪解け水が、大量に注ぎ込む。真水は海水よりも比重が軽い。だから、閉じたオホーツクの海は広い領域で、海面近くが低塩分になっている。水の対流はこの薄い部分でしかおこらない。これが第二の条件。そして冬になると、この海に冷たいシベリア降ろしが吹き抜けるて、海面を冷やす。これが3つ目の条件になる。オホーツクの海がどんなに深くても、薄い塩分水が表面を覆っているため、対流はせいぜい水面下50mぐらいまでしかおこらない。シベリア降ろしにさらされる海は、浅いナベの水のようにぐんぐん冷やされるのだ。

流氷は、はるか遠くのアムール川にその源がある。3月中旬頃が最大になる。このころは広いオホーツク海の8割が、氷で覆われてしまう。

おすすめの流氷ビューポイント
雄武町 日の出岬
 
興部町 沙留岬
紋別市 氷海展望塔 オホーツクタワー
スカイタワー 流氷岬
湧別町 龍宮台展望台
網走市 能取岬
JR釧網線・「北浜駅」
斜里町 プユニ岬
 

(3)流氷初日・海明け

地球温暖化の影響か、近年は流氷の勢力が弱くなってしまっているが、オホーツク沿岸に流氷が接岸するのはだいたい1月の中旬ごろ。この日を「流氷初日」と言う。その後、氷はしだいに厚くなっていき、氷のエリアも広がっていく。2月の下旬から3月上旬が最盛期で、春の足音が近づくとともに、氷もあちこちで割れて海に漂うようになる。
そして春。オホーツクの春は海明けで始まる。氷が溶けて、漁船が沖に出られる日だ。漁師だけでなく、沿岸の人々もこの日を待ちわびる。それは桜の開花と同じように、海に再び生命が宿り、春の訪れを実感できる日だからだ。
春に名残り雪が降るように、遅い春に流氷からお別れの便りが届くこともある。幻氷と呼ばれる蜃気楼が見えるころ、オホーツクは本格的な春を迎える。

(4)オホーツクの気候との関連性

氷はたくさんあるけれど雪は少ない。これがオホーツク沿岸の特徴だ。雪が少ないというのは晴れている日が多いということ。実はこれも流氷が影響していると考えられている。
氷に覆われた海面では、暖かい太陽の熱は氷を溶かすだけに使われて、空気は暖かくならない。
この冷たい空気が上空の暖かい空気に押されて対流しようとし、高気圧ができる。これが晴天の源だ。つまり、海が氷に覆われている間中は、高気圧ににも覆われて天気の日が多くなるというわけ。オホーツクの青い空には、流氷も一役買っている。

(5)流氷に生きる

流氷とともにやってくる人気者といえば、流氷の天使・クリオネ。その愛らしい姿が心をなごませてくれるが、クリオネのほかにも小さな生き物たちがたくさんいる。その理由はアムール川の水が凍るため流氷には植物プランクトンが豊富にあり、それを求めて動物プランクトンが、そして動物プランクトンを食べる小さな生き物たちが集まるという、いわば食物連鎖の仕組みになっているようだ。
さあ、流氷の小さな仲間たちを紹介しよう。

クリオネ
巻き貝の一種で体長は2cm〜3cmほど。優雅な泳ぎ方に特徴がある。

リマキナ
クリオネと同じく巻き貝の仲間。体長は0.8cm〜1cmほど。

シースパイダー
クリオネやリマキナのように、流氷とともにきていっしょに去るわけではないが、流氷の下でよく見られる。海グモの仲間で体長は4cm〜5cmほど。

流氷とともに来て、そして去っていく動物たちがいる。アザラシやオジロワシ、オオワシたちだ。運が良ければ、オホーツク沿岸の流氷の上で昼寝をしているアザラシや走り回るキタキツネなどを見ることができる。アザラシは流氷とともにやってきて、オホーツクで子供を産み、子育てをする。そして流氷とともに北の海へ帰っていく。シャチなどの外敵がいない流氷の上は、彼らにとってもっとも安全な場所になるからだ。

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