1.流氷を科学する その2

(1)海が凍るメカニズム

  塩分を含む水は結氷温度が0℃以下に下がる。これを氷点降下と呼んでいるが、下がり方は塩分の多いほど大きい。海の水は塩分量がほぼ3.3%(1000gの海水中に33gの塩分がとけている)で、その結氷温度は−1.8℃である。

海が凍るときは、池の氷のように一枚の氷が初めからできるのではない。まず初 めに、小さい氷の結晶が海の表面近くにたくさんできる。この氷、つまり「氷晶」 は、降ってくる雪の結晶と同じ形で、六角花、針状、角板状などである。

波がなければこれらの氷晶は静かに成長し、互いにからまり合って薄い氷板をつくる。 波の動きがあると、それにゆられているうちに、氷晶の集まりは波の波長のほぼ半分の大きさに分割されていく。

揺れ動く間に互いにぶつかりあって、ふちが少しまくれた丸い形になる。この氷を「蓮葉氷」という。これは氷といっても小さい氷晶の集合体なので、やわらかく、指で押すとすぐに穴があくほどである。蓮葉氷の大きさは直径50cmにもなることがある。 波の方は、この蓮葉氷のため静められる。蓮葉氷と蓮葉氷との間にも氷ができ、やがて固い厚い氷板へと成長する。

(2)海氷とブライン 

海水が凍るときには、海水のなかの真水の部分だけが凍る。残った塩分はそのために濃縮され、鉛直に細長い管状または細胞状になって海氷の中に閉じこめられ、取り残される。これをブライン細胞(濃縮塩細胞)と呼んでいる。

できたばかりの海氷では、ブラインの体積は、海氷全体の30%にも達する。このときのブラインの温度は、海水の結氷温度−1.8℃である。ブライン内の塩分濃度も海水と同じ3.3%である。ということは、海水の真水部分がまず凍り、その中に海水がそのまま閉じこめられてしまうということである。さらに温度が下がり海氷が厚くなっていくと、ブライン内の温度も下がり、ブラインの中から新しい氷が折出される。

それによってさらにブライン内の塩分が濃縮される。はじめ30%の体積を占めていたブラインは、−2℃になると24%に、−5℃で10%、−10℃で5%というように、温度が低くなるにつれブラインは縮小し塩分は濃縮されていく。

高い塩分濃度のために、ブラインが完全に固化するのは−54℃である。こんな低い温度になることは自然界にはないので、海氷・流  氷の中には、多少とも液体のブラインが入っていると考えてよい。

(3)オホーツクの流氷を調べる

日本では北海道のオホーツク海岸だけで、北の方から流氷が押し寄せてくる。オホーツク海で冬の最初に凍るのは、北緯55度線上の西の端にあるシャンタル諸島周辺、およびそこから北東にのびる海岸沿いで、11月には結氷する。12月初めには拡大してサハリン島の北東海岸に及ぶ。

また北部の海岸線に沿って、最北端のペンジンスキー湾も凍りはじめる。その後流氷域はサハリン島東岸に沿って南に伸びるとともに、オホーツク海中央部に拡張する。1月初めには、サハリン島南  端に達し、北海道沿岸への接近の機会をうかがう。

北海道沿岸への流氷の襲来は、ほぼ1月の中旬である。2月の初めには流氷は千島列島の南端に達して、その一部は太平洋に流出を始める。3月の初めか中旬には、流氷域が最大となって、オホーツク海の80%を覆ってしまう。4月中旬には流氷は、オホーツク沿岸から去っていき、5月下旬にはオホーツク海から完全に氷がなくなる。 氷の厚さは、計算上、北海道沿岸では40〜50cm、サハリン島北部で100〜120cm、オホーツク海北部で150cmほどの厚さである。

ちなみに、地球上の最極寒地アラスカ北部では200cmの厚さになる。 以上は静かに凍った場合であるが、風や海流によって流される流氷の場合には、内部応力のため亀裂が入り、氷板群となる。これらが互いにぶつかり合い、重なり合うため、高さ2m以上の氷丘ができることもある。 

オホーツク海の面積は153×10の4乗平方キロメートルであるから、80%が厚さ70〜80cmの海水に覆われるとなると、その量は、9×10の11乗立方メートルもの大量になる。毎冬これだけの氷を融かすのに必要な熱量は、日本の原油輸入量の25年分にも相当する。

(4)流氷の動き

流氷の状況の変化は早い。特に春の解氷期に著しい。1日のうちに見渡す限りの流氷原が流れ去ってしまったり、逆に青海原が1日のうちに流氷で覆い隠されてしまうことはめずらしくない。流氷の中では波がない。

したがって流氷が動くときは上下に揺れることはない。流氷の動きは速くても1時間に1kmか2kmくらいである(風速の2〜3%で動くと言われている)。

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